HIROKI KAISAURUS MAGAZINE 2022/03

2022/03

世界一や世界記録を出す
その日まで〜将来のウルトラマラソンでの活躍を目指す
甲斐大貴さんの挑戦ストーリー〜

Episode : HIROKI KAI

“くれいじーかろ”の愛称で知られる甲斐大貴さんは、サウルス東京練習会のコーチを務めている。
指導者として活動しながらも、年を重ねるごとに自己記録更新や大会での優勝経験を増やし、マラソンやスカイランニングに活路を見出した。

朗らかな笑顔が印象的な27歳の甲斐さんであるが、現在は学生時代からの目標であったウルトラマラソンでの世界一や世界記録更新を目指している。
コロナ禍でウルトラの大会は中止が重なっているが、大会が無事に開催されるまでその“ハート”はブレていない。

サウルス東京練習会のコーチを務める甲斐大貴さん

大学時代から
ウルトラマラソンを意識

千葉県柏市出身の甲斐さんは「小学4年生の頃から毎日走っていた」という。

「多い時には合計20km走っていて、当時はたくさん走ったことを自慢したかったんです。
でも、その後身長が伸びなかったので、それがよくなかったのかもしれないですね」

当時からウルトラマラソンのためのメンタリティを形成していたようにも思える。
中学時代は疲労骨折や肉離れなどの怪我を経験することもあったが、月間400-500kmをすでにこなしていたというぐらいだ。

その後、地元の駅伝強豪校である日体大柏高に進学。
当時の千葉県は市立船橋高や八千代松蔭高などの駅伝強豪校が切磋琢磨していた時代だったが、日体大柏高は甲斐さんの高校3年時に千葉県高校駅伝で優勝。
その後、甲斐さんは全国高校駅伝で4区区間38位の成績だったが「直前に怪我して良い状態で出れなかった」と高校時代の怪我の経験を振り返る。

順天堂大で3年時に箱根駅伝の最終メンバー入りも出走は叶わず

大学は順天堂大に進み、2学年下にリオ五輪の3000m障害に出場した塩尻和也選手(現富士通)がいるなど、高校よりもさらにレベルの高い仲間たちと練習を重ねた。
そして、3年時には箱根駅伝の最終メンバー入りを果たしたが、本番の出走が叶うことはなかった。

しかし、甲斐さんは大学時代から別の目標を持って陸上競技と向き合っていた。
「ウルトラマラソンは日本人が世界記録を記録持っているから自分でも十分戦える種目」と、当時の目標チェックシートには将来のウルトラマラソンでの目標を綴ることも。

これには、甲斐さんが小学生の頃から多くの走行距離を重ねたきたことにルーツがあるのかもしれないが、大学を卒業して実業団のラフィネに進む時には本格的にウルトラマラソンを意識するようになったという。

結果的にラフィネでの3年目でチームを去ることになったが、その頃からコロナ禍の大会中止で100kmウルトラマラソンへの本格的な挑戦が先延ばしに。

しかし、2021年3月のびわ湖毎日マラソンで2時間17分09秒、2022年の別府大分毎日マラソンで2時間15分17秒の連続自己新と、マラソンで実業団時代の自己記録を順調に更新しており、今もなお進化し続けている。

2021年3月びわ湖毎日マラソン:“くれいじーポーズ”をみせる甲斐さん

YouTuberやランニングコーチとして

甲斐さんは競技者としてだけでなく、“くれいじーかろ”の愛称で知られるYouTuber活動や、サウルス東京練習会などのコーチとしても活躍している。

YouTubeの活動がモチベーションに繋がっている

「YouTubeはモチベーションアップに繋がるのが良い」と話すが、小型カメラを着用してレースに出場し、時折“くれいじーポーズ”を見せる様子は、少年が鬼ごっこで駆け抜けるかのように楽しそうに走っているように見える。

「YouTubeをやりはじめた時ぐらいに周りから批判もあったりしたんですが、周りに流されるよりも自分の決断が大事だと思っています。
自分でやることに責任を持ってやり続けた結果、ランニングコーチの活動も含めて生計を立てていますし、競技も両立できています」

「走ることが楽しいから続けている」という甲斐さんは、自分が好きなランニングを仕事にしたこと、そして一歩先に踏み出す勇気を持つことの大切さを話してくれた。

甲斐さんは実業団のラフィネ退社後に“JOHHOKU CABALLO”というキッズ教室で子供の指導に携わっている。また、人に指導をするという点ではラフィネ時代からも市民ランナーとの接点があったというが、そのうちの1人がSAURUS JAPAN代表の嵜本晃次だった。

「ラフィネを退社するタイミングで嵜本さんから連絡をいただいて。お陰様でサウルス東京練習会は盛り上がっていますが、嵜本さんがこれまで作り上げてきたものが大きいと思っています」

ラフィネ時代から接点があった甲斐さんと嵜本

サウルス練習会は毎回、ペーサーをそれぞれのグループに用意して行うスタイルの練習会ではないが、有志でグループの先頭を引っ張るランナーたちがいる。各々の目標に向かって切磋琢磨し、士気を高めあう集団の雰囲気がそこにある。

「自分の指導力のおかげだとは思っていないですが、練習会に参加している人から自己記録や大会での優勝報告をもらうのはやっぱり嬉しいですね」

全国各地のサウルス練習会が盛り上がりを見せているが、東京練習会をまとめる甲斐さんが競技で結果を出し続けていることもあって、それに続くサウリストが増えている。

士気を高めあう集団の雰囲気がそこにある

スカイランニングへ活路を見出す

甲斐さんは「100km世界記録と6時間切りを目指す」と、ウルトラマラソンで結果を出すことを公言している。一方では、日本一決定戦のサロマ湖100kmウルトラマラソンが2020年、2021年と2年連続で中止。コロナ禍の厳しい事情がある。

マラソンでは自己記録を2時間15分17秒まで伸ばしているが、一方では2021年からは本格的にスカイランニングに活路を見出している。

2021

  • Skyrunner® Japan Series第3節
    (蔵王スカイラン:バーティカル5km) 優勝
  • スカイランニング日本選手権
    (志賀高原エクストリームトレイル/SKYULTRA 54km) 優勝
  • IZU TRAIL Journey 2021:70k 2位

2022

  • スカイランランニング世界選手権(イタリア / 9月9-11日)の日本代表に内定
  • 日本スカイランニング協会のSKY&SKYULTRA種目の特別強化指定選手に選出
  • 飛ぶ鳥を落とす勢い”の新星が突如、スカイランニング界に現れた。

スカイランニング日本選手権【志賀高原エクストリームトレイル】で優勝

スカイランニング日本選手権では「うまく走って3番以内(日本代表)に入れたらいいな」という気持ちで出場したという。上りでキビキビとした動きをみせて30km辺りで先頭に立ち、その順位をキープして歓喜のフィニッシュを迎えた。

また、オールスターメンバーの集結ともいわれたIZU TRAIL Journey 2021:70kでの2位の結果は、現在のスカイランニング日本トップレベルでの甲斐さんの立ち位置を示した。そのレースでは世界大会で優勝経験のある上田瑠偉選手には遠く及ばなかったものの、スカイランニング参入からわずか1年も経たずに日本トップクラスに上り詰めたといえる。

序盤は上田選手が先頭に立つことを想定してハイペースに備えた。その後、30kmで両脚のハムストリングスが痙攣し「無理はできない」と悟るが、表彰台を狙っていたわけではなかったので、自分の走りに集中したという。

甲斐さんは一時は順位を落としたが、マイペースを取り戻してからは減速していた前の選手を追い抜くことができ、さらに64km地点ではIZU TRAIL Journeyの前回優勝者の川崎雄哉選手を抜いて2位に。

いつもの“くれいじーポーズ”を見せる甲斐さん

スカイランニングでは4本ほど装備しているアミノサウルスジェルの効果をよく感じるというが、順位の入れ替わりが多かったレースを「最初から最後まで楽しかった」と振り返った。

そして、「まだまだ、世界(上田選手)との差を感じた」と言いつつも「走るのが楽しいのでもっと自分のランニングを広めていきたい」とも話す。今年は9月にイタリアで開催されるスカイランニング世界選手権の日本代表に内定しており、秋に照準を定める。

甲斐さんの同世代には、今年の別大マラソン優勝の西山雄介(トヨタ自動車)、前回のMGC4位の大塚翔平(九電工)、そして甲斐さんの順大時代の同期であるマラソンPB 2時間07分26秒の聞谷賢人(トヨタ紡織)がいる。

彼らはパリ五輪を目指して日々トレーニングを積んでいるが、同じように甲斐大貴というアスリートも今後、様々な世界大会での活躍や世界記録を目指して日々トレーニングを積んでいくだろう。